旧大連航路上屋
空港のない頃、港は外国からの玄関口でした。台湾や中国・大連をはじめ、世界各地へとつながる旅客ターミナルであるこのアール・デコ様式の建築物は、1929(昭和4)年に竣工されました。
出発前の高揚感や到着後の安堵を
見守った国際貿易港のターミナル
関門海峡ミュージアムの向かいにある旧大連航路上屋は門司港が国際的な貿易港であった名残を留める、歴史的にも重要な国際ターミナルの建築物です。門司港は1901(明治34)年には貿易額で長崎港を上回り、大阪に次いで国内4番目の貿易港となり、旧大連航路上屋は1929(昭和4)年に竣工されました。1932(昭和7)年、日本と関わりの深い満州国が建国されると盛況を極め、1938(昭和13)年には、隣に一棟が増築されました。1929(昭和4)年の建設から第二次世界大戦の終戦で航路が断絶するまで、日本の玄関口として門司港は重要な役割を果たしてきました。
アール・デコ様式の意匠設計は
国会議事堂も手がけた大熊喜邦
アール・デコとは幾何学模様を取り入れた装飾デザインで、当時としては最先端のデザイン様式でした。この建造物の設計は国会議事堂や横浜税関などを手がけた官庁建築家・大熊喜邦によるものです。1階には上屋や収容貨物置場、保管旅具置き場、貨物事務室、監視係事務室、旅具検査場、旅客溜などが、2階には一般待合室や特別待合室、携帯品検査場、郵便電信係室、予備室があり、正面ファサードにはチケット売り場と思われるブースが設けられていました。それぞれに当時の意匠が凝らされ、チケット売り場には昭和初期に流行した字体デザインで陽刻された「階上待合室」「階下旅具検査場」の案内文字が見えます。また採光に適したガラスブロックや鉄筋コンクリートなど近代建築の実験的な技術が採用されています。
各種多目的スペースと
映画・芸能資料館「松永文庫」
屋内の空間は有効活用され、会議や楽器・ダンスの練習、イベントや修学旅行の休憩など目的に合わせたスペースがあります。またYAMAHAのグランドピアノを常設したホールは様々なジャンルの音楽イベントが行われています。特筆すべきは「松永文庫」です。映画・芸能資料館「松永文庫」では門司出身の松永武が寄贈した大正期から現在までの約100年におよぶ貴重な映画資料等5万点超を所蔵、整理研究が行われ一般にも公開されています。北九州市の文化施設として、当初は門司市民会館内(門司区老松町)で無料一般公開され、2013(平成25)年からは旧大連航路上屋内1階にて資料展示を行っています。懐かしい映画ポスターや映画雑誌、映画や芸能に関する資料や機材を陳列、また不定期に企画展を行っています。